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2016年5月6日(金)  ≪カリスマ経営者の引き時≫

先月の7日、セブン-イレブン・ジャパンやイトーヨーカー堂を傘下に持つ流通大手のセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEOが突然退任を表明した。鈴木敏文 氏は1932年(昭和7年)12月生まれの現在83歳で、経団連の副会長や日本チェーンストア協会の会長、或いは我が中央大学の先輩で学校法人中央大学の理事長などを歴任し、藍綬褒章、紺綬褒章の他、勲一等瑞宝章を受章している。彼は、組織の母体となる「イトーヨーカドー」が出店規模を拡大している最中の1973年に周囲の反対を押し切ってアメリカに倣って我が国初のコンビニエンスストア『セブン-イレブン』を立ち上げ、今年4月時点で国内1万8650店舗、海外を含めると北米や東南アジアを中心に約6万店舗を擁する世界最大のコンビニチェーン組織に育て上げたのである。

彼が≪カリスマ経営者≫と呼ばれるようになった所以は、店舗を地域に集中的に出店するドミナント戦略の構築や他に先駆けて1980年代の初めにPOSシステムの導入、更に2001年に業界初の銀行である「セブン銀行」を立ち上げた他の追随を許さない経営手腕に依るところが大きい。最近では、ネット販売で台頭してきたアナゾンや楽天に対抗するためマルチチャネルの小売りの進化形で、リアル(実店舗)とネット(インターネット通販)のボーダレスを目指す試みであるオムニチャネル戦略に力を入れ始めたが、その矢先の退任劇である。退任の直接の引き金になったのは、子飼いであったセブン-イレブン・ジャパン井坂隆一社長兼COOの退任を求めていた人事案が、取締会で否認されたことによるものだ。

権力の場に長く座り続けるとどんなに優秀な経営者でも徐徐に感覚がマヒしてきて、人心が離れて行くものである。彼はそれを今回の一件で、「自分が信任されていない」と敏感に感じ退任を申し出たようだ。帝国データBの資料に依ると1990年に社長の平均年齢が54歳だったのに比べ、2015年には約5歳上がって59.2歳になったそうだ。この理由の一つが、高齢化と後継者不足が挙げられる。年をとった経営者が常に考えているのは、いつどこで、誰に会社の経営を委ねるか?ということだろう。優秀な経営者ほど年を重ねて行く毎に頑迷になり、周囲の意見を聞かなくなり部下が表に出さないが不満を抱くようになるものだ。トップたるもの潔い引き際こそが、過去の栄光に更なる輝きを増す。(下は、鈴木氏の著書「商売の原点」)toshifumi-suzuki 或る雑誌が、経営者が引退を意識始める兆候として挙げている事由をご紹介しよう。一つは、「会社の成長を追い求める情熱が薄れてきた」。一つは、「経営判断を迷うことが多くなった」。一つは、「自分のやり方に拘りすぎて、部下とぶつかることが多くなった」。一つは、「時代の変化に付いて行けなくなりつつある」。一つは、「土壇場で体力の限界を感じる」。一つは、「自分でなくても経営が可能な環境になりつつある」。一つは、「現場が、従前に増して自分を怖がるようになった」。逆に、「部下が自分を馬鹿にする素振りが見られるようになった」もその一つかもしれない。私も、最後の項は除いて、これらの幾つかに思い当たるフシが有る。私の退場の時期もそう遠くないかもしれない。